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名古屋高等裁判所 昭和22年(ツ)33号 判決

上告人 原告・控訴人 村田又雄

代理人 村井清造

被上告人 被告・被控訴人 西川米松

主文

本件上告はこれを棄却する。

上告費用は上告人の負擔とする。

理由

本件上告理由は別紙上告理由書に記載の通りである。これに對する當裁判所の判斷は次の通り。

上告理由第一點について。

原審は上告人の自白と原判決引用の證據とにもとずいて、昭和十四年七月頃被上告人は同人加入名義の金澤電話局電話第二三四五番を、維持費一切は上告人負擔、期間は昭和十七年十二月三十一日までの約束で上告人に使用させることを承諾し、上告人はこれに對し一ケ月金六圓を毎月末支拂うことを約定し、それ以來、上告人の自宅に架設して上告人が使用してきたが右約定の昭和十七年十二月三十一日までの期間終了の際双方暗默の合意によつて期間の定なく、その他の條件は前記と同一の定めで貸借を續けることになつたとの事實を確定したこと原判決の判文上明白である。原判決引用の證據によると、期間の點についてこのように認定し得ないことはないのであるから、論旨は、つまるところ原審の専權に屬する證據の取捨判斷、事實の認定を非難するに歸着し、到底採用に値しない。

上告理由第二點について。

原審の確定した本件電話の貸借について民法の賃貸借の規定を適用すべきものではないことは上告人所論の通りであるが、原審の確定したごとく、存續期間の定のない契約關係において、債務の不履行なき限り當事者は永久にその束縛をうけ、いつまでもその關係をたち切ることはできぬとするは、物の道理、事の筋合に反するといわなければならないから、各當事者において何時にても解約の申入をなすことができると解すべきである。解約申入の効果について民法第六百十七條第一項を適用することは、本件契約を動産の賃貸借と認め得ない以上、無理だけれども、現今の取引の實情に照すときは動産の賃貸借の場合と同様に解約の申入後一日の經過によつて、その契約が終了するものとすることは敢て失當となすべきでない。從て、昭和二十一年九月三日の第一審口頭辯論期日における被上告人訴訟代理人のなした解約の申入によつて本件契約がその翌日限り終了し、上告人の本件電話使用權は消滅したとの原審の判斷は適法であつて、原判決には何等所論のごとき違法はないものと認めなければならぬ。よつて論旨は採用し得ない。

よつて、本件上告は理由なしと認め、民事訴訟法第四百一條、第九十五條、第八十九條を適用し主文の通り判決した次第である。

(裁判長判事 藤江忠二郎 判事 茶谷勇吉 判事 白木伸)

上告代理人村井清造上告理由書

第一點原判決は本件賃貸借の存續期間につき「本件賃貸借の期間は始め昭和十七年十二月三十一日までの定めがあつたが、その後は當事者双方暗默の合意によつて期間の定めなく賃貸借して居たものと認められる」と云い以て存續期間の定めなき賃貸借となし民法第六百十七條第三號を準用して被上告人の昭和二十一年九月三日の口頭辯論に於ける解約の抗辯を是認せられた

然共本件電話の有償使用につき賃貸借に關する法規を準用するものとせば、賃貸借につき當事者が一定の存續期間を定めた場合にその期間滿了後賃借人が使用又は収益を繼續し賃貸人が之を知りて異議を述べないときは民法第六百十九條は前と同一條件を以て更に賃貸借を爲したるものと推定し、借家法第一條に依れば期間滿了前六ケ月乃至一年内に更新拒絶の通知を爲し又は條件を變更せざれば前と同一條件で賃貸借を爲したものと看做すのである。本件電話については昭和十五年十二月三十一日附にて昭和十七年十二月三十一日迄向ふ二ケ年の存續期間を定め該期間經過後も借賃毎月六圓を支拂ひ來り(甲第一號證、證人村田キミ子の證言、原告本人の訊問の結果)居るものにして契約存續中本訴を提起したことは記録上明かであるが、存續期間經過後更に期間を特約しなくとも法律は當事者間に反對の意思表示がなければ更新したるものと推定するのである、即ち原判決は昭和十七年十二月三十一日以後は暗默の合意によつて期間の定めがなくなつたと判示してゐるが、右期間後に期間を定めなかつたということは、期間の定めなき契約に暗默裡に變更又は更改されたと解釋すべきでなく、賃料額、その支拂期日と同じく期間も前と同一條件で更新繼續されつゝあると解するのが賃貸借に關する法則の正解なりと信ずる、而かも上告人がたとへ暗默裡にでも何時にでも解約の虞ある賃貸借契約に變更又は更改する不利益に從う意思を有したものと認定すべき根據は少しも無く却つて永久に使用し得ること、又は都合により買受けの申出を爲し得る約束もあつたこと、戰時中撤去されてゐた本件電話機の復活架設手續を爲したる事實等を第一審以來主張立證して來たり且被上告人の口頭辯論中の解約の効力を否認して來てゐるのは暗默裡に何時でも解約し得るということゝ相容れないことで結局原判決は審理不盡、理由不備又は賃貸借に關する法律の解釋適用を誤つた違法あり破毀を免れないと信ずる

第二點電話機は國家の所有にして個人間における之が賃貸借なるものは無効であるが加入者が電話局をして他人の住所營業所等建物に架設させ他人をして使用させる契約は廣く一般に行はれこの契約は動産の賃貸借に非ざる一種特別の契約にして該電話の使用即ち通話の停止並に電話機設置場所變更を爲し得るは加入者に非らずして電話局であつて動産物の貸借移動處分が所有者の任意なると同一視することができぬ、民法第六百十七條第三號が動産の賃貸借において解約申入は一日の經過によつて効力ありと規定するのは轉々處分が當事者の自由なる物件に關する法則と解すべく電話機の如く建物に架設され國家の電話局の手によらなければ轉々處分できない物件につき右法文を適用又は準用しやうとすることは失當である、一般社會においてもかくの如きことは行われてゐない、即ち本件電話は上告人宅に架設され、上告人が基本料、使用料、其他一切の經費を負擔し且又未だ電話局より通話停止其他の處分を受けて居らず現に使用中である、然らば民法第六百十七條第三號を準用し昭和二十一年九月三日の第一審口頭辯論における被上告人の訴訟代理人の解約申入に依りその翌日限り上告人の使用權が消滅したる如く判示したる原判決は審理不盡、理由不備並に民法及電話規則の解釋適用を誤つた違法あり、破毀を免れないと信ずる。

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